雄々しくも勇壮に、獅子の如くにやって来て、
素早い逃げ足、ウサギの如くとばかりの、
あっと言う間に去ってゆく。
それが 如月、Februaryの醍醐味で。
「…日本語、間違ってないか?」
うっさいわね、小学生。(苦笑)
それほどまでのものと表現されるのは、
立春という“春”を冠する節季もあるが、
何の何の、この月こそ最も寒いのだから警戒せよと。
更に衣を着ると書く“更衣”でもある月でありながら、
とはいえ 短いので、
あっと言う間に去ってくよという言い回しなんですが。
「今年の二月は変だったよなぁ。」
「まぁな。」
ドカ雪が降って大変だった、
クリスマスからこっちの大寒波が、
どういう弾みか スルスルスルっと逃げてゆき。
あっと言う間の、ほぼ翌日にはもう…という勢いで、
花見どきレベルの暖かさがやって来た、お日和の変わりよう。
……と思ったら。
三連休を襲った豪雪再び。
油断していた隙を衝かれて、風邪を拾ったお人らも多かろう。
やっぱりな、このまま春めくほど甘くはないと思ったよなんて、
訳知り顔して言った人らへ、今度こそはと思わせるよな、
お花見どきどころか、
ツツジも咲いちゃうぞどきの暖かさがやって来て。
汗かいて風邪ひきそうってほどの陽気になったのが、
「週末の雨のあと、
一気に冷え込むらしいって話じゃんか。」
やってらんねと肩すくめ、
子供用に小ぶりに作られた、
なのにフルフェイスという一丁前のヘルメット、
小顔を縁取る金の髪を無造作にも躍らせながら、
ガバチョと脱いでの外しつつ。
ガレージの奥向きへ、
愛車のゼファーをスタンドへと立てていた、
葉柱のお兄さんの作業を待っておれば。
「今更だが、寒くなったらバイクは無しな。」
そちら様もまた、フルフェイスのメットを脱ぎながら、
同乗して来た坊ちゃんへ、一応のクギを刺す。
それでなくとも途轍もない風が吹きつけるのがオートバイであり、
その風が凍るほどもの寒さを増すのだ。
そうと言ってはないけれど、
まだまだ幼い子供にそれって苛酷だろうと思えばこそ、
「小ぶりでも漬物石を背負うのは、
なかなかキツイからな…って、痛てぇな、おいっ。」
後半は見事に脛を蹴飛ばされたのは言うまでもなく。
尖んがり唐辛子坊や、寒い中でも意気軒昂でございます。(笑)
◇◇
昨年の冬の終わりを彷彿とさせる、
気温の乱高下が始まったことなぞを、
片やは小学生ながらもきびきびと語りつつ。
お外から戻った二人連れ。
今日のところは暖かいほうだったものの、
バイクを駆っての駈け回って来たものだから、
鼻の先やら耳たぶやら、真っ赤に冷やして来ておいで。
身動きもまだ鈍いようで、
ずぼらして うんうんブンブンと袖を振っておれば、
どらどらと手を貸してくれた総長さん。
そのまま甘えて、
ライダースジャケットを脱がせてもらっていた小さな皇子へ。
暖かいものお持ちしますねと、
お世話係の篠宮さんがお声をかけてくださって。
そんなこんなで
次男の坊っちゃんのお部屋へ向かいかかった彼らだったものが。
「妖一くん、あ、ルイも。こっちいらっしゃいな。」
ちょうど良かったと言わんばかりの笑顔にて。
お廊下の途中で、今日はお家においでだった奥様に呼び止められた。
新年度に向けて、そして間近い都知事選に向けての色々もありましょうに。
そういや、今日は朝から何かしら張り切ってたよなと、
今になって思い出した次男坊の手を引いて、
「なになに、どしたの?」
無邪気な坊やに成り済まし、
呼ばれた方へと“手の鳴る方へ”よろしく、
奥様の呼ぶほうへ、方向転換してしまう、
妖一坊やの ちゃっかりぶりよ。
「おいおい。」
腕の長いお兄さんだからという利点、
あまり屈まぬまま、素直に引かれてやったれば、
母上がこっちこっちと先導してゆき招いたそこは、
家人のみが出入りするお部屋の並ぶ、
お庭側に向いた奥向きの一角。
一番奥に当たろうそこは、落ち着いた数寄屋作りの和室になっており。
しかもそこには、
「あ……。」
どぉおと胸を張るお母様とお手伝いさんとで並べたのだろう、
それは立派なお雛様が飾られているではないか。
ありゃまあと、坊やが眸を丸くしたのも無理はなく。
「うわあ…そっか、ルイって女の子だったんだ。」
「どういうリアクションしたらいいのかな、それは。」
胸元へ小さな拳を引き寄せて、
うっそぉ〜〜〜っと言いたげな
“かわい子ぶりこ”をするヨーイチ坊やだったのへ。
こちらはいっそ、思い切り不貞々々しく
聞き返していた葉柱さんだったりし。
そんな二人のやりとりへ、うふふと微笑った奥様曰く、
「まぁね、当代には残念ながら女の子はいないのだけれど。」
これは葉柱の家に伝わるお雛様だから。
女の子供がいずとも、飾るのが習わしなのよと、
小箱を片付け終えたメイドさんたちが一礼して出て行くのと入れ違い、
畳の上へお邪魔する坊ちゃんたちを迎え入れ。
「いずれは次の代の女の子に譲られるの。」
そんな風に付け足したのへ、
あっと、お口を丸ぁるく開けた金髪坊や。
「じゃあさ、次はメグ姉ちゃんが…もがむが。」
大きなお手々が口を塞ぎに来たの、今更白々しいぞと思いつつ、
それでもまま、のって差し上げてのこと、
モガムガもがいて見せたれば。
「あ、やっぱりそう思う?」
仲のいいのは親御さんも承知の、
斗影兄上とメグさんの二人でもあるものだから。
でもねぇ、面と向かってはなかなか聞けなくてと、
坊やと気を合わせてのこと、
井戸端会議のようなノリにてキャッキャとばかり、
そんな話へ花が咲いてた二人ともう一人だったのだけれども。
「おや、お雛かざりのカタログかね。」
「そうなんですよ、可愛いでしょうvv」
「かーいーvv」
「ああこれこれ、叩いちゃいけないよ、くう。」
「だが、くうには もう、5段飾りのがあっただろうに。」
「違うんですよ。これはね、ヨウイチロウが…。(笑)」
「ほほぉ…?」
まったくもうもう、どこの親御も……。(笑)
〜Fine〜 11.02.26.
*女の子が少ないとはいえ、居ないわけではありませんのに、
男の子でこのネタをやってしまう、
どーしょーもない筆者です。(笑)
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